大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成4年(モ)354号 決定 1992年4月30日

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  原告の本件申立ての理由の要旨は、

「原告らと被告ら間の平成三年ワ第六八五号更正登記手続請求事件において、原告らは、被相続人高窪利平の遺言公正証書が作成された当時に同人が遺言能力を有していなかったことを立証するため、同人が生前に入院していた春日部東部病院(医療法人光仁会経営)が所持する診療録(カルテ、看護日誌、諸検査記録、X線フィルム等同人の症状に関して作成された一切の文書。以下、「本件診療録」という。)が必要であり、右診療録は、民事訴訟法三一二条三号前段もしくは後段に該当し、同病院が提出義務を負う文書であるから、その提出命令を求める。」

というものである。

二  被告高窪秀雄は、右診療録は同条同号に該当しないとして、原告らの右申立ての却下を求めた。

三  (1) よって、まず、本件診療録が民事訴訟法三一二条三号前段にいう挙証者の利益のために作成された文書に該当するか否かにつき検討するに、右文書とは、挙証者の権利義務を直接証明し、もしくは基礎づけるものであって、しかも、そのことを目的として作成されたものをいうと解されるところ、本件診療録は、病院の担当医師が患者に対する診療を行うにあたり、患者の状態やこれに対する治療行為の内容等を記録して、医師自身の思考の補助とし、適切な診療を確保するために作成したものであって、当該患者の権利や地位を基礎づけることを予定したものではないから、同号の利益文書には当たらないというべきである。

(2) そこで、次に、本件診療録が民事訴訟法三一二条三号後段にいう挙証者と所持者との法律関係について作成された文書といえるか否かについて検討する。

ところで、右文書というには、挙証者・所持者間の法律関係に関連のある事項が記載されていることを要すると解すべきであるが、本件診療録は、前記(1)のような場面及び目的で作成されたものであって、所持者である病院と挙証者である原告らとの間の法律関係に「付き」作成されたものとはいえない。

四  そうすると、原告らの本件申立ては理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林敬子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例